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#2 中桐 誠さん(前半)

 

France Alumni会員インタビュー② (前半)

「フランスでの学びの行く先は、フランスに留まりません」

 中桐 誠さん(在カメルーン日本国大使館 / エクス・マルセイユ大学大学院 留学)

 

France Alumni会員②

お名前:中桐 誠さん(28歳)

ご職業:在カメルーン日本国大使館 二等書記官

フランス留学(研修)先と留学期間:
2015年3月~2015年9月 OECD(経済協力開発機構)パリ本部インターン
2019年9月~2021年8月 エクス・マルセイユ大学大学院EU・国際法修士課程
2020年9月~2020年11月 OHCHR(国連人権高等弁務官事務所)ジュネーヴ本部インターン

中桐さんは、東京大学法学部を卒業後、2017年4月外務省に就職。21年8月にエクス・マルセイユ大学大学院にて修士号を取得し、同年9月から、在カメルーン日本国大使館に勤務し、ODAや政治・経済情勢分析、日本企業進出支援に取り組んでいらっしゃいます。

※肩書等は取材時の情報です。本記事は外務省の公式な見解を表するものではありません。

 

幼少期 - フランス語の世界に飛び込んで

  • 中桐さんはフランスに通算6年ほど住まれていたとのことですが、フランスとのご縁を教えてください

7歳の時に親の転勤でパリに引っ越しました。そこではインターナショナルスクールに通ったのですが、公用語が英語ではなくフランス語で、様々な国籍の同級生とフランス語でコミュニケーションをとるという、少し変わった体験をしました。今思えば、この時の経験が、自分の身に着けたフランス語をフランスの枠内で終わらせたくない、という原体験となっているのかもしれません。日本に帰国した後も、英語とともにフランス語の個人レッスンを受けたり、かつての同級生と連絡を取ったりしていました。大学では第二外国語としてフランス語を選択し、エコール・ポリテクニークに研修に行ったり、在日フランス大使館でインターンしたりするなど、繋がりを保ちました。外務省に入省した後も、希望が叶い、フランス語を研修言語としてアフリカに赴任することができました。

 

OECDでのインターンとフランス留学

  • 2015年にOECDパリ本部でインターンをされたきっかけを教えてください。

学部生の間に、海外で留学か研修を経験したいと思っていました。OECDは経済や開発協力に関する世界的な知見が集まる国際機関であり、それらの知を実践に移す仕事がどのように行われているのか興味がありました。インターンは原則大学院生が中心なのですが、幸運にも受け入れていただいたので、一年間休学しパリへ渡航しました。この時の配属は環境局で、グリーン成長というテーマで東南アジア諸国の環境政策の分析や森林保護についてリサーチをしました。多くの国際機関のインターンは無償なのですが、OECDでは手当が支払われたのもたいへんありがたかったです。

 

  • なぜ留学先としてエクス・マルセイユ大学大学院を選ばれたのでしょうか?

まず、せっかくフランスで学ぶからには、米英と比較してフランスに優位性のある学問を学びたいと思いました。学部時代の専門や自身の関心と掛け合わせて、人権や開発といったテーマを選んだのですが、それに最適なコースを提供しているのがエクス・マルセイユ大学大学院でした。指導教官の存在も大きな理由の一つで、私が教わった二名の教授は双方とも、アカデミックな活動だけでなく、国連の独立専門家として実務でも活躍されていました。特に、弁護士の資格もお持ちの教授が別途運営している人権訴訟のコンサルティング機関にプロボノとして参画することができたのも大きな魅力でした。

中桐さんによると、フランスは歴史的に人権研究の蓄積があり、また欧州人権裁判所(ストラスブール)を始めとした欧州枠組、EU法についても研究が盛んであることから、フランス語を話せたりフランスの研究者と繋がりがあることは最新の知見を得る上でとても役立つそうです。

 

研究と実務 両方を経験できた修士課程

  • 修士課程の二年目では、論文執筆とOHCHR(国連人権高等弁務官事務所)でのインターンを両方経験されたとか?

フランスの大学院の修了要件は主に二種類あって、修士論文の執筆か、長期でのインターンのどちらかです。前者だとじっくりと研究の経験を積むことができ、博士課程への道が開ける一方、後者は実務経験を積んで就職やキャリアアップにつなげることができる利点があります。これらを二つとも行うのはかなり大変でしたが、学術と実務の間を往復することで相乗効果を生み出すことが出来たと思います。

中桐さんはコースワークを終えた二年目は、OHCHRの本部があるジュネーヴのフランス側の隣町・アヌシーに引っ越し、インターンを終えた後も職員や国連専門家と学術的な交流を続けつつ修士論文を執筆したそうです。アヌシーは相対的に物価も安く、自然に囲まれとても暮らしやすかったとか。

 

  • 研究はどういった内容でしたか?

修士論文は150pの大作だったので要約するのが難しいのですが(笑)、その一部をご紹介すると、企業や個人、集団、そして国際機関といった「非国家主体」が持つ人権の擁護義務についてです。最近では日本でも「ビジネスと人権」や「SDGs」といったキーワードが聞かれるようになりましたが、開発と人権の歴史はそれぞれ古く、国家間乃至国内での政治的な闘争や支配の道具として使われてきた背景があります。国家による人権の擁護義務は人権諸条約等である程度明確化されてはいるのですが、その「人権」が意味するところは解釈する主体によって異なります。今日では非国家主体についても人権を擁護する「責任」があるとの議論が支配的ですが、これに対して法的義務があると考える最新の動きがあり、それを研究していました。OHCHRではまさしくこちらを担当する部署でインターンを行ったのですが、論文の内容を評価していただき、インターンが終わった後も独立専門家と意見交換をしたり、担当ディレクターにプレゼンするなどの機会を頂きました。今も学術誌に寄稿したり、論文を書くなど個人的な研究を続けています。これらについて発信する際の言語は、話者数の違いから、どうしても英語が多くなってしまいますが、私の参考文献の3割程度はフランス語で、中には原典がフランス語しかない場合もしばしばあります。この分野の研究も外交も複数言語できて当たり前という世界なので、英語とフランス語両方できること自体が大きなアドバンテージにはなりませんが、やはり一定の速度・水準で複雑な文書を読み込むことができるというのは強みになります。

 

 

UNDP(国連開発計画)が提供する講座で国際人権法についてフランス語で講義する中桐さん

 

 

  • インタビューは後半に続きます